牛深水産は、地元・牛深の漁師たちによって支えられています。Uターンして漁師になった池田隆文さん(35)は、「魚を通して牛深に興味を持ってほしい」と、牛深への愛を隠しません。池田さんの漁に対する思いを聞きました。
「漁業を取り巻く環境は厳しい」
―池田さんは牛深生まれでいらっしゃるんですね。
はい、そうです。地元の高校を卒業後、福岡で就職。牛深にUターンして12年が経ちました。父親と共に、ここで漁師をしています。
―漁師として楽しいと思うことは。
漁師はサラリーマンと違い、自分の頑張った分だけ収入があります。自然相手なので、収入が大きく下がる月も、もちろんある。それでも、いい魚をとって、収入につなげていく過程にやりがいを感じています。簡単に言うと「お金を稼ぐと楽しい」という回答ですね(笑)。
ー漁業を取り巻く環境はいかがでしょうか。
正直言ってあまりよくはありませんね。父が船を作った15年前、魚の値は今の約2~3倍ありました。一方で、燃料価格は今の約半分。養殖技術の確立や流通コストの低下など、さまざまな要因により、魚の値段が下がり、漁師としては大変な環境です。
産地は「目利き力」が命
―牛深の魚の魅力は。
魚の味や品質は、個体によって異なります。消費者の方は「魚と言えば○○産」とイメージされるかと思います。しかしながら、水揚げされた魚の中には、美味しいものも、そうでないものも含まれるんです。これはどこの産地 でも同じです。
ーではなぜブランディングに成功している産地と、そうでない産地があるのでしょうか?
そこで、漁師や水産業者の目利きが問われるわけです。ブランディングに成功している産地は、魚の選別や流通などの仕組み作りや、人材育成が上手くいっています。そういった部分で、牛深でももう少しできることがあるなと感じています。
ーつまり牛深にはブランディングの余地はまだあるというわけですね。
その通りです。牛深でも美味しい魚がたくさんとれます。ポテンシャルは非常に高いんです。でも、知名度は他の産地と比べてそれほど高くはない。
ーではまず何をすればよいのでしょうか?
まずは目利き力を、より一層高めることです。そうすれば、牛深の魚の美味しさが際立ちますからね。僕たちは良い魚を選んで出荷する。そうすることが、牛深産の魚を差別化していく第一歩になると思います。
「魚を通して牛深に興味を持ち、足を運んでほしい」
―池田さんの目標を教えてください。
個人的な思いとしては、地元でも都会でも、適正価格で品質の良い魚が販売される将来を目指しています。漁師と消費者がWin-Winの関係を目指したい。
ー先ほどは「お金を稼ぐことが楽しい」とおっしゃっていましたが、消費者のことも考えてらっしゃるように感じます。
もちろんそうです。お金を稼ぐのは僕が生きていくため。でもやっぱり、消費者に牛深の魚を堪能してほしいんです。牛深のことを知ってほしいんです。
ー池田さんからは地元愛を感じます。
うーん、どうなんでしょうね(笑) でも牛深に興味を持ってもらいたいという思いは強いです。
ー全国に牛深を伝えたいんですね。
例えばサラリーマンが東京の飲食店で牛深産の刺身を食べるとします。「おっ、これは旨いぞ。牛深ってどこなんだろう。ふむふむ、Googleマップによると、熊本県の先端なんだな。どんな場所なんだろう」ーー。こうなればしめたものですね。魚を通して牛深に興味を持ち、足を運んでくれる人が出てくる。こうした状況を作り出せたら、漁師として本望です。